夜、電車を降りると、ポケットに手を突っ込んだまま、背伸びをする。さっきまで読んでいた漫画のように、鄙びた温泉宿なんかに泊まることを夢想しながら、腰をポンポンと叩く。今日もくたびれた。家に着く頃には日付は変わっているだろう。自転車にまたがって上を向いたら、街路樹の枝越しに星がちらちらと見えた。風もない静かな夜道に聞こえるのは、ペダルを踏む音だけ。こんなときは少しだけ遠回りをして、人通りの少ない道で下手くそな鼻歌を唄うのです。
何かを思い出す、そのちょっと手前の感じ、その感じ。いつも仲良しの、冬の夜の感じ。
